本稿では、格・前置詞・後置詞などが表す意味変化がどのように起こるのかを考察する。先行研究を調べると、意味変化の規則性の背後にあるメカニズムを少なくても三つ挙げることができる。一つめがメタファーをメカニズムと考えるアプローチ、二つめはTraugottの一連の研究に代表されるような推論をメカニズムと考えるアプローチ、そして三つめは常にメカニズムにより意味変化が起こるのではなく、別々のメカニズム、例えばメタファーと推論が意味変化の違う段階で起こると考えるアプローチである。本研究の目的は、(a)言語一般に表れる意味役割の派生の全体像を捉えること、そして(b)(a)に基づいて先行研究に見られるアプローチを適切に評価することである。