認知、機能言語学、文法化の研究を含む歴史言語学、類型論などの領域では前置詞等の機能語の多義に関する研究が多く発表され、多義のパターン(意味役割の組み合わせ)、意味派生のメカニズム、その制約などが明らかになってきている。多くの先行研究に従うと、前置詞、後置詞などの機能語が表す意味変化の一般的なパターンはFig.1のように表すことができ、そこにある意味変化の制約を見出すことができるかもしれない。すなわち、派生される意味は、派生する意味から特定の意味構造(イメージスキーマ)を保持しなくてはいけないという制約を持つ(Genneti1986, 1991, Heine et al.1991, Sweetser1988)。本発表では、それらの機能語の意味派生に関して特定の意味構造が保持されるという主張は多くの例をうまく説明できないことを指摘する。そしてそれらの例外的な具体的例を注意深く観察すると、多くの先行研究が示すのとは違う意味変化のパターンを示していること、また意味構造の保持とは違う制約が意味変化の背後にあることを指摘する。