本論文は、北米先住民族の球戯(Ball Game「ボール・ゲーム」)に照準を定め、主として文化人類学的な視角からその発生・成立に関して考察を加えたものである。第1章では、北米先住民族の宗教観と遊戯とが概観されている。宗教観については、当該民族の間に伝わる神話(民話)を整理することによってその特徴が明らかにされている。また遊戯については、「静的遊戯」、「動的遊戯」とに整理をした上で、さらにそれらの遊戯には単なる「遊び」として実施されているものと、社会的な機能を担いながら実施されているものとが存在していることが述べられている。第2章では、球戯あるいはボールの社会的機能と構造とが明らかにされている。球戯が豊漁(猟)・豊作を祈念する占いとして、あるいは部族間の戦いに備えての模擬戦として行われていることや、ボールが自然をシンボル化したものとして取り扱われていることなどが論じられている。加えてここでは、対象とする北米先住民族の球戯10種類が概観されている。そして第3章では、各球戯毎に使用されるボールと打球具の形状、材質、重さ等が検証されている。球戯の構造と用具の構造との関係を分析することによって、北米先住民族の球戯が当該部族の宇宙観、宗教観、世界観とともに(近代的な)力学的根拠にも基づいて成立していることが明らかにされている。