ACTN3遺伝子は、速筋線維のZ膜を構成するタンパク質であるa-actinin-3をコードする。577塩基対のアルギニン(R)が終止コドン(X)に置き換わることで多型が生じる(RR, RX, XX)。終止コドンのホモであるXX型は、a-actinin-3を作らない → パワー・スプリント系のパフォーマンスに不利である可能性が指摘されている (Yang et al.2003; 黄ら、2009; Kikuchi et al. 2014)。我々はこれまでに日本人高齢者を対象に、男女それぞれにおけるACTN3遺伝子R577X多型、運動習慣、および体力との相互関係を検討した結果を報告した(ECSS, 2012; 日本体力医学会大会、2012)。日本人高齢男女を対象に、ACTN3遺伝子R577X多型、身体活動傾向および体力との間に関連性があるかどうかについて検討する。横浜市在住の男性高齢者(n=70、年齢:66歳~89歳)および女性高齢者(n=100、年齢65~90歳)に対して、ACTN3遺伝子R577X多型の解析、運動習慣や日常生活活動(ADL)に関するアンケート、筋機能・歩行能力・平衡性などに関する体力測定を実施した。なお、各測定項目を完遂できなかった者やデータ等に欠損があった者についてはあらかじめ研究対象から除外した。各対象者には、本研究の主旨を十分に説明し、同意を得たうえで口腔粘膜のサンプリング等を行った。
本研究の対象とした高齢女性では、定期的な身体活動実施の習慣があるかどうか、ACTN3遺伝子のRアリルを有するかどうか、またはその相互作用によって、足底屈筋力(体重あたり)を除いて、分析対象とした測定項目すべてに対して影響が及ぼされる可能性が確認された。一方、高齢男性では、定期的な身体活動実施は柔軟性と歩行能力に、ACTN3遺伝子のRアリルを有することは背筋力(体重あたり)と歩行能力にそれぞれ関連する可能性が認められた。
しかしながら、サンプルサイズが男女とも十分とはいえないため、さらに対象者を増やして検討を深めていく必要がある。