スポーツ現場において広く利用されている物理療法のひとつに、広義の冷却(アイシング、クーリングなど)がある。冷却は、応急処置やコンディショニングなどのツールとして利用されている。したがって、冷却を適切に活用するための知識・技量は、アスレティックトレーナーとして身につけるべき基本的な能力と言っても過言ではない。冷却による生体応答・適応の作用機序や実践例は、スポーツ科学やアスレティックトレーニングの指導書において、必ずと言ってよいほど記述されている。しかし、これらの記述が、必ずしも最新の科学的知見が反映されたものとは限らないことに留意する必要がある。近年、生命科学の技術は著しい速度で発達している。それに伴って、スポーツ科学分野においても、生命科学の研究手法が取り入れられるようになった。その結果、冷却による生体応答が分子・細胞レベルで紐解かれるようになり、冷却の新しい可能性や冷却の適応症の見直しなどが検討されるようになってきた。演者は、効果的なトレーニング方法やリハビリテーション方法の創出を見据えて、分子・細胞生物学の手法を駆使した基礎研究を実施している。そこで、本講演では、分子・細胞生物学者の立場から、冷却に関する最新の科学的知見を紹介する。そして、他のシンポジストや参加者とスポーツ現場における冷却について議論を深める機会としたい。