第4章
メアリー・シェリーは、『ヴァルパーガ』執筆当時、イングランドではマキャヴェッリの著作を通して知られていたルネサンス時代のルッカの君主、カストルッチョ・カストラカーニを主人公に歴史ロマンスを執筆した。マキャヴェッリの著作においてカストルッチョは英雄として描かれているが、メアリはこれを暴君として扱っている。彼は英雄ではなく残虐な君主であり、彼の被害者である民衆や女性達の視点から歴史の書き直しが試みられている。
第6章
この小説を通し、メアリは歴史小説における女性の参入という問題を我々に突きつけている。当時の歴史小説といえばウォルター・スコットの専売特許であり、その後はコナン・ドイルを見るまでこの分野で名を成した作家はいない。しかし、メアリーはばら戦争後のヨーク家とランカスター家との争いを詳細に研究し、本作品を著した。そこには男性の歴史小説家にはあまり見られない、女性登場人物の繊細な心理的描写という特色がある。
第11章
本章ではメアリー・シェリーの研究史を3つの段階に分けてまとめた。研究の揺籃期である1970年代は、専ら『フランケンシュタイン』の作家としてメアリが取り上げられていた。その後1980年代になると、『フランケンシュタイン』以外の作品も盛んに論じられ、研究の発展期を迎える。そのための基礎資料が充実してきたのもこの時期である。90年代以降現在、包括的なメアリー・シェリー研究の時代に入る。彼女の作品集や一次資料は大方揃い、研究のための基礎は完成に近づくが、作品の評価に関しては決して包括的ではなく、いまだ前期の作品にのみ評価が集中している。