ピアノは,1709年に発明され、その発展とともに,ピアノ音楽も作曲家により量産され,演奏者も多く出現することになった。ピアノを演奏する型のひとつとして,編曲作品を演奏することが挙げられる。編曲とは,楽曲を他の演奏形態に適するように改編することである。管弦楽作品をピアノで演奏する場合,その何段にも亘るスコアから音を読み取る労力よりも,ピアノ独奏用に編曲された楽譜によって演奏することができれば,その作品の全体像を掴むことや,音楽を表現する喜びを十分に味わうことができる。ピアノは,音域もオーケストラの諸楽器の音域を有しており,単体楽器でありながら和音・和声といった細かい部分の表現も可能である。本論文では,ベートーヴェン交響曲第5番『運命』ハ短調作品67第1楽章を題材として,演奏者側からの視点による編曲に主眼を置き,レヴェル別による編曲の実践を通して,管弦楽作品をピアノ独奏用に編曲する技法について論じる。(pp.161-179)