未完の小説「路上」(1919)の検討を通して、芥川作品の特質の一斑を闡明する試みである。本論文では作中のテーマ群の解読に注力している。具体的には、作中に散在する「植物」「動物」「水」「飲料」の持つ意味について、「作中人物名」の解釈を加えつつ、解読している。それによって、「天」「地」を両極とする大きな構図を浮かび上がらせることができた。如上のテーマ群の潜在力が解き放たれれば、長編小説的な力動性の担保に寄与できたと思われる。だが、一方で、そのような潜在力の流露を抑制する志向も、同作には働いている。そこに芥川作品における、表現・趣向の特質がある。