「幼年時代」における二人の母
室生犀星研究、第22輯、pp.27-39
犀星「幼年時代」は、自伝小説とばれるものの、かなり虚構性の強い作品で、それはしばしば〈美化〉〈理想化〉といった言辞で現実糊塗的側面が強調される。しかし、同作における虚構性は、小説家犀星の積極的な方法意識の顕れと見るべきである。すなわち、詩人犀星が同時期の詩作品によって獲得した方法を小説制作に導入した結果と解し得るのである。この点について、「幼年時代」・犀星詩の双方における〈母(実母・養母)〉の造型を比較検討することによって考究・闡明した。
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