中学・高校の代表的な文学教材「山月記」「走れメロス」を例に、作品の細部という観点から考究した文学教材論・国語教育論である。教室の学習活動においては〈わかる〉ことが最優先となるべきは言うまでもない。だが、明快に〈わかる〉ことによって逆に見えにくくなる細部がある。「山月記」の場合は李徴に食い殺された死者であり、「走れメロス」の場合はディオニスに殺された死者である。いずれも学習課題となりにくい細部、むしろ学習課題と齟齬しがちな異物としての細部である。とはいえ、それらは黙過してよい末梢部分とも言い切れない。それらは、学習者・授業担当者の双方にとって、〈気付き〉の読みの感度の試金石なのである。