「奉教人の死」は芥川作品を代表する1編であるが、これまで作品のクライマックスに関して「宗教的感動」であるか「芸術的感動」であるかといった聊か噛み合わない論議がなされてきた。主人公〈ろおれんぞ〉の男から女への転換が解釈上の躓きの石となっていたのである。だが、作中において〈ろおれんぞ〉の性が明らかになった際、奉教人たちが「さんた・るちや」(聖ルチア)の顕現を直観したことは疑いない。すなわち、同作は殉教譚であると同時に奇蹟譚として提示されているのである。宗教的感動の芸術的昇華が企図された作品として「奉教人の死」を論じた。