室生犀星「津の国人」の世界
室生犀星学会秋季大会
「水」のモチーフを基軸に犀星小説「津の国人」の作品世界を読み解いた。主人公〈筒井〉は、その名の通り「水」を体現した人物として造型されている。すなわち、変容する相と不変である相との二つを併せ持った存在である。柔軟さと強さを兼ね備えた〈筒井〉は、犀星の女性思慕の具現化でもあろうが、とまれ如上の「水」のテーマ化によって、同作は原話の『伊勢物語』を反転させた独特の感触を生み出すにいたった。犀星王朝小説の佳品として同作を位置付けた。