「蟲寺抄」覚書
室生犀星学会東京支部例会
戦時下の昭和17年発表の犀星「蟲寺抄」は、時局との非交渉の姿勢を保持した作品であるが、従来の論究においては、その心境小説的側面のみを強調する傾向にあった。が、同作には明確に戦争批判の意図が込められていたと見做し得る。かかる観点に立って、死に行く秋虫の形象が、戦争犠牲者及び言論統制下で沈黙を強いられる作家たちのメタファーとして機能している点を分析・指摘した。