背景】バランス能力は加齢に伴い低下する傾向を示すため、下肢筋力を強化する等の予防を行うことが重要である。しかし、動的バランス能力と筋力との関係を検討した研究は十分ではない。
【目的】本研究では、中高齢者を対象に下肢筋力が動的バランス能力に及ぼす影響を検討し、中高齢者の健康づくりにつなげることを目的とした。
【方法】対象は定期的に体操教室に通っている54~83歳の女性61名であった(平均年齢:68.0±7.1才, 50才代:9名、60才代:21名、70才以上:31名)。測定項目は身長、体重、等尺性膝伸展筋力(膝伸展筋力)、足関節底屈筋力(底屈筋力)、水平保持時間(動的バランス能力の評価指標)とした。なお、水平保持時間の測定は安全かつ簡便に測定可能なバランス測定器(竹井機器社製)を用いておこなった。測定時間は15秒間とし、測定時間の中で水平位を保持できた時間(水平保持時間)を計測した。
【結果】水平保持時間、膝伸展筋力/体重、底屈筋力/体重は加齢に伴い低下する傾向を示し、特に70才を過ぎると、いずれも50才代に比べて有意に低い値を示した(水平保持時間 50才代:9.9±0.8秒、60才代:8.3±2.4秒、70才以上:6.8±1.8秒)。さらに膝伸展筋力/体重および底屈筋力/体重と水平保持時間との関係をみると、いずれにおいても両者の間に有意な正の相関関係が認められ(r=0.458、r=0.372)、筋力が大きい者ほど、動的バランス能力は優れている傾向を示した。加えて、下肢筋力/体重(膝伸展筋力/体重+底屈筋力/体重)と水平保持時間との関係をみると、両者の間にさらに高い有意な正の相関関係が認められた(r=0.471)。
【結論】以上より、中高齢者の動的バランス能力には膝伸展筋力だけでなく底屈筋力も影響を及ぼすことが示され、転倒を予防する意味でも大腿伸筋群と下腿屈筋群を併せて強化し、動的バランス能力を維持することが重要であると思われた。