嘉納治五郎とその側近の言説をもとに、柔道の形の現代的意義について考察した。嘉納およびその側近は、乱取に偏重し形を閑却する修行者の傾向に警鐘を鳴らす多くの言説を残している。嘉納の発信から約100年が経過する現代においても、形は修行者から閑却される傾向にあり、むしろ海外で愛好される傾向がある。昇段時は、段位に応じた形の審査が課されるが、6段以上では特に厳重に審査される。嘉納は、「身体の徹底的の鍛錬」および「臨機応変の力」を養うには乱取が優れるとし、形だけでなく乱取の重要性も説いている。柔道の修行は、嘉納の時代同様、「形と乱取の両輪」が重要である。柔道が世界に普及した理由の一つに柔道の理念(カノウイズム)が挙げられる。柔道修行者は、この理念の実践のためにも形を軽視すべきでない。