柔道整復師国家試験出題基準の2020年改訂では必修問題に「柔道整復師と柔道」が盛り込まれた。本研究は、出題基準における嘉納治五郎の言説に基づき、出題基準に含まれる嘉納思想の意義を検討、再確認することを目的とした。医療系国家試験に特定の個人の思想が出題されるのは異例であり、これを是認するためには嘉納思想と「柔道整復業務における能力やスキル」に共通の要素があるとする前提が必要となる。嘉納思想は柔道整復業務に直接の関係はなく、国家試験対策のための表面的な理解でも支障はない。しかし嘉納は、精力善用の思想に至るまでに、武道の攻防におけるいわゆる「柔の理」に限界を感じ、その後「精力最善活用」の思想に至ったことが知られ、ここには愛護的、また合理的であることを求められる「骨接ぎ」の技術に共通する前提を看取することができる。